ヒラノ教授をめざせ!

前回、2007年4月以降に誕生した「助教」、「准教授」という大学教員の職階の認知度を論じた。
大学教員の職階として、部局長などの役職を除くと「一番上」の職階はいうまでもなく「教授」である。
それらの教員数の分布はどうなっているのだろうか。
例えば、東京大学の「職員数 (平成22年5月1日現在)」によると、

教授 1,282名
准教授 893名
講師  253名
助教 1,336名
助手  64名

となっており、助教に次いで教授が多く、部局長などの役職に就いていない「ヒラノ教授」(ヒラの教授)が千数百名存在するであろうことが判る。

そんな「教授」の仕事について、興味深い話が満載の「工学部ヒラノ教授」という本がある。

工学部ヒラノ教授

工学部ヒラノ教授

下記、amazonより抜粋。

大学設置基準大綱、大学院重点化、独立法人への道―朝令暮改文科省に翻弄され、
会議と書類の山に埋もれながらも、講義という決闘に挑み、
研究費と優秀な学生獲得に腐心する日々。
大学出世スゴロクを上がるべく、平社員ならぬ平教授は今日も奮闘す。
筑波大、東工大、中央大の教壇から見た、工学部実録秘話。

「実録秘話」ということで、ほとんど実名で周辺の人々が出てくるだけに面白い。
その点は同じ著者の前作である
「すべて僕に任せてください―東工大モーレツ天才助教授の悲劇」
と同じである。ちょっと心配になって
「そこまで書いていいの?」と思ってしまうほど。

すべて僕に任せてください―東工大モーレツ天才助教授の悲劇

すべて僕に任せてください―東工大モーレツ天才助教授の悲劇

理工系特有の事情や、時代背景など、一般的でない話も多いが、
文系と同じ一般教養部に所属されていたことや、
前年度まで中央大学で教授(東工大定年後)をされていたことなどから、
これから教授を目指す若手研究者にとって必読の有用な本であると思われる。



以下では、本文中で印象に残った文章を幾つか抜き書きしておこう。
理工系の研究者の生き馬の目を抜くが如くである研究競争の有様は、

新たな知識を吸収してその道の専門家になるには、すくなくとも2〜3年はかかる。
一流になるには、更に2〜3年の時間が必要である。
「量産せよ!質は量について来る」の言い伝えのとおり、50編の論文を書けば
その中に4つ5つは、ピカリと光るものが含まれている。
だから50編書けば一・五流, 100編書けば一流になれる。

という文章によくあらわれている。



また、著者の「ヒラノ教授」をめざすモチベーションは

なるべく早く教授になりたいと思った公式の理由は、
二流の教授に気を使うことなく、生涯の研究テーマに取り組み、
国際AA級の研究者になりたいと思ったからである。



とのことで、これは多くの若手の准教授、助教が感じていることであろう。
しかし、著者は、実父が地方国立大で長いこと50歳を過ぎても助教授であった
ことで、

学生時代から、重症の”教授パラノイア"にかかっていたのである。

とのことで、

息子が誰かから、「君のお父さんはもう50を過ぎたはずだが、まだ助教授なんだね」
と言われるようなことは、絶対にあってはならないーー。

という事を強く心に抱き、助教授から教授へとステップアップしていったそうだ。



また、これらの大学教員としての出世を「大学スゴロク」と表現し、

日本の国立大学工学部では、30代で教授という人は10人に1人もいない。
一方で50代で助教授という人も、10人に1人以下である。
(中略)
スゴロクには「1回休み」、「2回休み」、「振り出しに戻る」などの罰則がある。
大学スゴロクでは「40歳を超えても助手」が「1回休み」、
「50歳を超えても助教授」が「2回休み」に相当する。

などと、年齢と職階の関係を表現している。


「工学部ヒラノ教授」の内容を再度、別の記事として取り上げることがあるかもしれないが、
一読した感想としては、文章に一貫性がない点(読み直せば簡単にみつかるようなミスが沢山。赤ペンを入れたくなりますよ、ヒラノ教授!)
が少し目につくものの、本書は類書に無い貴重な内容を含んでいて面白く、
大学周辺に居る人ならばイッキに読んでしまえるだろう。
本の内容は大学でのコーヒーブレークや、研究会の懇親会や新年会、
忘年会などの楽しい雑談のネタとなるであろう。



最後に「ヒラノ教授」こと今野浩先生の略歴

東大工学部応用物理卒 (22歳), 東大院応用物理学修了(24歳), 電中研研究員(24歳-33歳), 筑波大助教授(33歳-41歳), 東工大教授(41歳-60歳),
東工大院研究科長(56歳-58歳), 東工大理財工学センター長(58歳-60歳), 中央大教授(60歳-70歳)



「ヒラノ教授」には「教授パラノイア」から解放され、心安らかなる老後を送ってほしいと願う。



さて。



まだ老い先長い、我々若手の研究者は、一に論文、二に論文、三、四も論文、五も論文、、、、と、

100編の論文を書いて、一流の教授をめざせ!