定年までに教授になって、定年まで教授でいるために読もう「工学部ヒラノ教授の事件ファイル」

twitter(@tenure_jp)をやるようになって、日々、
大学教員の不祥事についてのニュースをつぶやくようになったが、
セクハラ、アカハラ、研究費の不正使用、論文捏造、情報漏洩(ノートパソコンやUSBメモリの紛失)、
入試の不手際など、大学教員の不祥事が日々ニュースを賑わしている。
これは特別に悪い教員がやっているのか、というと内容によっては
どの大学教員でも起こしうるケースもあり、ニュースを目にしてヒヤッとすることもある。
特に、学生に対するアカハラは効率的な厳しい指導(スパルタ教育)と紙一重だし、ノートパソコンに試験問題や
成績を入れて持ち歩いている教員も多いと予想されるため、情報漏洩はまさに自分が明日起こすかもしれない、
明日は我が身の事件だ。
また、法人化後の雑務の急増によってか、細心の注意が必要な入試業務などにも信じられないようなミスが報道されている。


このような事件を起こしてしまうと、せっかく苦労して取得したテニュア職(任期なし職 or 任期は定年まで)
を懲戒免職などで自ら捨ててしまうことになるかもしれない。そこまででなくとも、懲戒処分は
教授への昇任にとってマイナスポイントになるであろうし、停職1日でも、在職期間が1年減って、
退職金計算にとっては不利になる(場合によっては100万円ほど損をする)のではと思われる。


では、どのようにそのような、大学教員の誰にでも起こりうる危険な罠から身を守ればいいのだろうか。
以前、「ヒラノ教授をめざせ!」で
紹介した、大学教員を目指す人にとって必読の書である、東工大名誉教授である今野浩教授が書いた、
工学部ヒラノ教授の続編である
「工学部ヒラノ教授の事件ファイル」という本が、2012年6月18日に出版されている。

工学部ヒラノ教授の事件ファイル

工学部ヒラノ教授の事件ファイル

下記、amazonより抜粋。

筑波大、東工大、中央大での大学出世スゴロクのさ中、ヒラノ教授は、見た! 事件は工学部で起きている――横領、セクハラ、アカハラピンハネ、おなじみのポスト争い……日本の未来を担う工学部キャンパスで、今日も勃発する「犯罪」の数々。巧妙、姑息な手の内から、新聞を賑わす事件の真相までをも明かす、比類なき大学ノンフィクション。名門工学部をわたり歩いた著者ならではの観察眼が冴える!



あとがきにもあるように、前作に比べて、時間をかけて書かれただけあって丁寧に書かれた印象を受けて、より楽しめた。
アメリカで客員教授時代に、アンジェリーナ・ジョリーのようなセクシー・ガールから受けた色仕掛け単位略取作戦や、教育以外
やらなかった東工大の教養部時代(時給1万2000円)とか、東工大助教授の痴漢事件、
中央大在職時にあった,「中央大学教授刺殺事件」など、読み応えがある。

しかし、事務から頼まれたとは言え、本人がおこなったカラ出張について記述してあるのは、
本当に暴露していいのだろうか?と心配になってしまう。このように、本人がおこなった、細かい、「あ、それダメだろ!」
的なこと、現在では、絶対に許されない(もちろん昔でもダメなんだが、、、皆やっていた)ことが多く書いてある。


京大元教授逮捕の前に出ていたのが悔やまれるが(もう半年、待ってこの事件に関するコメントもほしかった)、
常態化していた預け金についてや、もう6年前になるが、
W大学有力M(女性)教授」の研究費不正問題、
昨年話題になった東工大学長就任候補の副学長の不正経理事件や、続く再選挙で選ばれた工学部長の不正経理
と、最近の事件にもふれている。


前作に続いて、大学における裏事情、アメリカにおけるテニュア獲得戦争や、
研究をやる気にさせてくれるような、ヒラノ教授の経験に基づいた文言もちりばめられており、
大学教授をめざす人にとっては必読の書であろう。以下では、本文中で印象に残った文章を幾つか抜き書きしておこう。

講座制の大学では、准教授は通常その講座の教授より15歳から20歳年下の人から選ばれるから、大方の准教授は教授が
定年退職したあと、40代半ばには教授に昇進する。

(原文の助教授→准教授と変更)
と、各大学の公募に応募する際に、既にいる教員の年齢構成をチェックしておくのは基本であることが改めてわかる。

流動性が高いアメリカでは、二流大学の一流教授は、たちまち一流大学に引き抜かれてしまう。また業績が上がらない
二流助教は解雇され、三流大学に流れて行く。ひとたび三流大学でティーチングマシーンになったら、研究者として
カムバックする道は閉ざされる。

など、今後の日本がたどるであろう、アメリカの大学の事情が記述されているのも興味深い。例の銃乱射事件についてもコメントがある。


ユーモアを感じたのは

「47歳の東工大助教授 通勤電車の車内で婦人警官に痴漢行為」。この新聞記事が出た時、
 44人もの東工大助教授が「俺じゃない」と叫んだということだ

とのことで、確かにありうる笑えない(笑えるが)話である。



ヒラノ教授こと今野浩氏は、中央大学も退職し、ヒラノ教授からヒラノ老人となり、「年2000時間の執筆時間を手に入れた」とのことで、次回作が楽しみである。