研究者として生き残るための仕事術

情報技術の進歩により、現代の我々は情報の嵐の中を生きている。


研究テーマとして「面白そうなこと」「やってみたいこと」の情報は日々、インターネット
から無尽蔵に入ってくるし、検索エンジンを使えば、それまで考えてもみなかった
新しい「面白そうな」研究テーマに出会う、思いつくこともあるだろう。


しかし、我々人間は有限の寿命を持っている。
人生に残された時間は「面白そうなこと」を全てやるには短すぎる。
また、同時に多くの「面白そうなこと」に手をつけると、何一つ「成果」として
残らず、仕掛け研究テーマが山積し、論文は長らく出版されず、他の研究者に先を越され、
研究競争に負けてしまう。アイディアを形(論文)にまでもっていかないと、研究者としての未来はない。


では、どのように「最優先にやるべき大事なこと」を決めていけばいいのだろうか?
また、どのように片っ端から要領よく「面白そうなこと」をこなし、
成果を上げ、研究者として生き残り、「教授」をめざしていけばいいのだろうか?

そのような疑問にこたえてくれる本が、
島岡要氏(元 ハーバード大学医学部准教授、現 三重大学教授)
による「やるべきことが見えてくる 研究者の仕事術」である。

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

以下、amazonより抜粋

「研究者に必要なのは知識や実験技術だけではない!」プレゼン力・時間管理術・コミュニケーション力など、
10年後の自分に自信が持てる『仕事術』を身につけよう! 研究が思うように進まず途方に暮れた時、
進路に不安を覚えた時、評価されてないんじゃないかと不満を感じた時…本書を読めば、今起こすべき行動が見えてくる。

時間のない人は最初の方の「その1」という15ページ程度だけでも読むといい。
著者いわく、

本書では「その1」が全体のアブストラクトの役目を果たしています。
忙しい方はまずはこの章だけを読んだだけでも、重要なポイントがわかるように心掛けました。

とあり、いかにも理系の研究者らしい本の構成になっている。

この「その1」から、印象に残った幾つかの文章を抜き書きしておこう。

研究という仕事をする意味とは、自分が重要と考える問題に取り組むための研究費と
環境を獲得し、成果を論文として発表し、社会に問うというサイクルの中で切磋琢磨し、
人間的成長を遂げる過程にある

そして、その「人間的成長」のための指針として、
「研究者として仕事をすべき10の原則」が記してある。
以下にそのステップを記しておこう。

1. 興味を持てる得意分野を発見する(好きよりも得意にこだわる)
2. 最初は自分で学ぶ (仕上げは専門家に質問する、時間管理し、継続的に学ぶ)
3. 師匠を持つ
(弟子の成長目標は、いずれ師匠を超えることではなく、師匠とは違ったアングルで、
 師匠以上のインパクトを世の中に与える仕事をいつの日か成し遂げること)
4. 現場で恥をかく
(恥をかいても(rejectされても)発表・論文投稿し、質問し、露出を高め、自分を研究コミュニティの中で知らしめる)
5. 失敗を恐れつつも、果敢に挑戦する(恐れるべきは失敗ではなく、失敗を恐れて挑戦できなくなること)
6. 自分の世界で一番になり成功体験を得る(自分が一番になれる小さな世界から始める)
7. 研究者としての自信をつける(自分の研究を褒めて認めてくれるコミュニティに属する。調子のいいときに登り詰めろ!)
8. 井の中の蛙であったことに気付き、打ちのめされる(成長するための潜伏期間、成功とは、失敗から失敗へと情熱を失わずに進む能力である)
9. すべてを知ることはできないことを理解する(自分が何を知らないかを明確にする。謙虚になる。)
10. 自分の新しい見識を世に問うていく(謙虚ではあるが臆病ではない。)

上記の原則に関連して、「その2」以降、「その11」まである。
目次amazonで見る事ができる。

コラムもなかなか面白く、特に著者のブログにもある
うまく質問するために覚えておくとよい10のポイント」は為になる。
詳しくはリンク先をご覧頂ければよいが、短く要約すると、

1)マイクを使う、2)会場が静まるのを待って質問
3)「素人の質問で申し訳ないのですが...」など言う必要なし
4)演者をファースト・ネームで呼ばない、5)しゃべりすぎない
6)短く簡潔に、7)2つ以上質問をしない
8)質問+少し自分のことを売り込む
9)声を張る、10)質問することで自分を成長させる

と、特に3)、7)、8)はなるほど、実践してみよう、という気になる。


本書の他にも、世の中には多くの「仕事術」や「プロジェクトマネジメント」などビジネス書、自己啓発本
あるが、本書の付録にある「研究者の自己啓発とキャリア形成のための20冊」はためになる。

本書の前書き「はじめに」にあるが、

「将来楽をするために若いうちに努力すべき」という「先行努力・逃げ切り型」
のライフスタイルで一生安定した生活が保証されると信じることができた時代がありました。
今までの蓄えをうまく使ってあとは楽して逃げ切りたいという、
私が"ヘタレ"と呼んでいるマインド・セットを、
私自身を含め多くの人が心の片隅に持っているのではないでしょうか。
(中略)
研究者がプロフェッショナル/エキスパートをめざす過程では、仕事の最大の報酬は人間的成長なのです。

と、我々若手研究者は、研究を通じて人間的に成長しつづけ、プロフェッショナルな研究者として生き残り、
ヘタレでない教授をめざせ!