国立大学、公立大学、独立行政法人、私立大学間の異動に関する問題

テニュアトラックをはじめとして、ピアレビューなど大学教員の評価システムが大きく変わっていこうとしている。そんな中、居心地が悪くなって、現職場から別の職場へ異動する人や、内部昇進の条件の厳格化により、助教・講師→准教授、准教授→教授と他大学へ栄転する人が多く出てくると思われる。そのような異動の際に注意すべきことはなんであろうか?もちろん、給与の違いもあるのだが、それは仕方ないとして、制度上の問題として存在するのは「退職金」の通算問題である。以前このサイトで「大学教員の退職金」のエントリーで説明した様に、「勤続年数」が退職金の総額を決める上で大変重要になってくる。国立大学の「教員」が国家公務員の身分を有していた2004年以前では国立大学法人間を異動しても当然、国家公務員であるため、退職金は通算された。それは今どうなっているのだろうか?
たとえば、静岡大学就業規則

転職は1億円損をする (角川oneテーマ21)

転職は1億円損をする (角川oneテーマ21)

教職員が、引き続いて他の国立大学法人大学共同利用機関法人独立行政法人国立高等専門学校機構独立行政法人大学評価・学位授与機構独立行政法人財務・経営センター、独立行政法人メディア教育開発センター及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「他の国立大学法人等」という。)の教職員(独立行政法人宇宙航空研究開発機構にあっては教育職職員に限る。以下同じ。)となり、その者の教職員としての勤続期間が当該他の国立大学法人等の退職金に関する規定によりその者の当該他の国立大学法人等における職員としての勤続期間に通算されることと定められているときは、この規程による退職手当は支給しない。

ということで、以前の国家公務員であった行政法人間では退職金は通算される様であり、人材の流動化の面からみてもあるべき形となっている。一方、国立大学法人公立大学法人との間、公立大学法人と別の公立法人の間ではどうだろうか?全国公立大学教職員組合連合会のサイトの記事によると、

課題は退職金通算の問題です。公立大学間の退職金通算ができれば,国立大学との退職金通算も十分可能となるはずですので,公大連から公大協への働きかけにより,是非実現してもらいたいものです。

とのことで、なんと!、退職金は通算されないのである。これは驚くべきことである。もちろん、私立→公立、公立→私立、国立→私立、私立→国立も通算されない。私立→私立はどうなのであろうか?

内閣府の資料(研究者へのアンケート結果)によると、

退職金は勤続年数が多くなるほど高くなるが、私立大学間または国
立と私立の間で異動すると途切れてしまう。若い層やいったん定年
を迎える層はよいが、中間層は退職金の減少量が激しい。

とやはり、異動することで勤続年数が短くなってしまう。
ちなみに、私学の35年間勤続によるモデル退職金はこちらに資料がある。

以上をまとめると、

異動前勤務先異動後勤務先
大学等旧国立大学・研究所公立私立
旧国立大学・研究所××
公立×××
私立×××

と、大学教員が異動しにくい悲しい現状になっている。
こんな制度では、教員の流動化、人事の透明化による組織の活性化
なんて無理であろう。みなさんも、異動する際には損をしない様に、また若い人はそのあたりも考えた上で公募先を選択する必要もあろうかと思われる。

追記

川合真紀: 科学者・技術者のキャリアパス-人材流動の光と影-, 化学と工業, Vol.61-6, 569 (2008).
に, 退職金の通算がされない場合、大きな不利益を被るという例が具体的に論じられているので以下に引用しておく.

一つシミュレーションをしてみよう。学位取得後に 2 年間のポスドクを経た後に 30 歳で助教に採用され、
65 歳に教授として定年を迎えるとしよう。同じ大学 法人で 35 年勤めた場合と、
国公私立大学や研究法人 など異なる法人間を移動しつつキャリアを上げていっ た場合では、
生涯賃金に大きな差が出る。東京大学教 職員退職手当規則によると、
勤続 35 年で定年退職す る場合の退職金は 59.28 月分なので、
仮に教授として の最後の俸給月額が 55 万円だとすると、
退職金総額 は 3,260 万円である。旧国立大学間を移動する場合は、
それぞれの大学での勤続年数が通算されるので、今の ところは同一大学に勤務しているケースと同じであ る。
次に、助教を 5 年間勤めた後に別の法人(公立や 私立)で准教授として 15 年勤め、
さらに次のステッ プも異なる法人で教授として 15 年勤めた場合を計算 してみよう。
自己都合による退職と、定年・雇用期間 満了による退職とでは待遇が大分異なるが、
ここでは 現実的に助教及び准教授は自己都合により退職したと する。
助教及び准教授退職時の俸給月額をそれぞれ 40 万円と 45 万円とすると、
同じ 35 年勤めた後に手 にする退職金は 1,743 万円である。素直に現状の規則 を読むと、
およそ 1,500 万円の差が出ることになる。教授に昇進する年齢が高いと、
この差はもっと開く。 キャリアパスの中に独立行政法人の研究所が入る場合 も同様である。

テニュアトラック時代の到来

物事が進んで行く速度が一昔前に比べてどんどん加速していっている昨今である.
大学の制度も速い勢いで変わって行く過渡期である.

最近tenure track(テニュアトラック)という言葉をよく大学教員の公募/採用情報として目にすることが多い.
そもそもテニュアトラックとはなにか.
例えば北陸先端大のページの説明を引用すると

テニュア・トラックとは、若手研究者が、厳格な審査を経てより安定的な職を得る前に、
任期付きの雇用形態で研究者としての経験を積み力量を試されるコースのことです。
米国の有力な大学では、このテニュア・トラック・ポストでの業績が認められた者が任期を付けない教員のポスト
(「テニュア付教員」)になるという仕組みが一般的です。

大学教員の人事制度としてのテニュアトラックは文科省の旗ふりのもと巨大な予算が投入されている.
これらは「人事の適正化に関する目標」として教員の流動性を高めるための任期制の導入が
独法化後の各国立大学の第一期(2004-2009)中期目標
記されている様に進んできた流れの次の展開である.このテニュアトラック制度
来年からの第二期(2010-2015) 中期目標において記され,今後ますますそこかしこで聞かれる様になるであろう.

以下はたとえば北大

北海道大学は、第二期中期目標・中期計画策定大綱(平成20年4月)に「世界水準の人材育成システムの確立」を掲げ、
テニュア・トラック制度の充実を図るため、基礎融合科学領域リーダー育成システム事業を推進しています。

とのこと.

今後新しいキャリアパスとして

大学院卒(博士)→ポスドク(2-5年)→助教(任期 2-5年)→(厳しい審査)→准教授(任期なし=テニュア)→教授

というのが教授をめざす標準的なキャリアパスになるのだろうか.
先の昇進がみえる,予算的にもバックアップのある助教であれば制度としては上手く機能するのではと考えられる.

教授をめざす為のプロジェクト管理入門

教授になるためには,研究者としての能力が高いだけでは駄目だ.
コミュニケーション能力が高い資質であるのはいうまでもないが, その他に
マネージャーとして,同時に並行して走る様々な
プロジェクト(複数の研究・論文執筆作業,学生指導,講義,予算獲得書類の執筆, ...etc.)
を管理し決められた時間内に論文をアクセプトさせたり,学生を卒業発表させたり,講義の準備をしたり, その他組織の為の仕事,
予算獲得の申請書書きなどをしなければならない.



もしこのプロジェクト管理能力が欠如している研究者が独立してしまった場合,関わる周りの人が迷惑を被ることになる.


これらのことは,システム開発(ソフトウェア開発)のプロジェクトマネージャの抱える問題
とその解決法に学ぶところが多いかもしれない.

@IT : 明日からできるプロジェクト管理
から以下抜粋

開発プロジェクトは、何もしなければどんどん混乱していく。
計画は破綻し、成果物は四散し、開発要員の心理はズタズタになる。
混乱を収拾するのは容易ではない。

まったくその通りで,チーム作業でない場合ではさらに
独りでこの問題を抱え込み,心がズタズタになるであろう.


この様な事態を招かないためには,常に「進ちょく管理」をすることが大事だということである.
そしてその「進ちょく管理」には二つの原則があるとのこと.
一つはサイクルの作成.

次のようなサイクルを作成することです。
・プロジェクトメンバーも納得する計画を作成し、共有する
・この計画に沿って作業を行い、作業結果を報告し、計画と比較して分析する
・もし分析結果がある程度遅延している場合は、その対策を実施する

ということで,
計画をたてリソースを配分し,計画の進行状況を日々確認し,軌道修正をしたりするという
何か目標をたてた時には必ずする一連の作業である.



そしてもう一つは「進ちょく基準」.

「進ちょく報告」において,状況を正しく把握する精度を向上させることで,
その後の作業に必要なリソースの見積もりや計画の軌道修正がより妥当なものとなる.
この為には,「進ちょく基準」を明確にする必要があるとのこと.

「報告による進ちょく報告」の場合はメンバーの成熟度が高くないと進ちょく
状況を正確に把握できず、遅れに対しての対応が後手に回ってプロジェクトそのものが
デスマーチ」化してしまう可能性を秘めています。そのためにも明確な進ちょく基準が重要です。

とのことでその「進ちょく基準」の例として幾つかの方法が述べられているが,成果物,作業を全て
書き出すことが良さそうである.直接成果物にならない重要で必要な作業が研究や教育には数多くあるはずだ.


全ての作業・成果物を把握し,より詳細な計画をたてることがプロジェクト成功には重要であるとのこと.

地図と同様、計画の作業を細かく定義すればするほど精度が上がります

そして,作業工程もどんどん分割すると良いとのこと.
これはいわゆるデカルトの"divide and conquer"(「困難は分割せよ」)
である.そして,その分割の仕方であるが,

計画段階での作業の詳細化には限界があります。
この辺りのトレードオフを検討しながら作業を分割し、
階層化します。この作業分割した階層のことをWBSと呼びます。



WBSとはWork Breakdown Structureだとのこと.
(リンク先はwikipedia)


ということでこれらを実行する,プロジェクト管理ツールなるものもあるとのことで,紹介されている.



教授を目指す,若手独立研究者は,論文執筆や研究プロジェクト,
講義準備等の「進ちょく管理」に用いてればプロジェクト管理力があがるであろう.



さぁ,そこの君もプロジェクト管理で教授をめざせ!

国立大学の定年 関東・甲信越地区 2

国立大学(87校)
http://www.mext.go.jp/b_menu/link/daigaku1.htm

関東・甲信越(26校)
15. 東京海洋大学 不明
16. お茶の水大学 65歳(ただし60歳から選択定年制)
http://www.ocha.ac.jp/reiki/reiki_honbun/x2430082001.html
17. 電気通信大学 不明
18. 一橋大学 63歳
http://www.hit-u.ac.jp/guide/information/out_04.html
19. 横浜国立大学 60歳
http://kisoku-sv.jmk.ynu.ac.jp/yokokoku/exe/reiki.dll/list?Midasi2=49
20. 新潟大学 65歳
http://133.35.13.22/reiki_int/reiki_honbun/w9440065001.html
21. 長岡技術科学大学 不明
22. 上越教育大学 不明
23. 山梨大学 不明
24. 信州大学 65歳
http://www.h6.dion.ne.jp/~uni-uni/shu-ki/Shinshu-u/Shinshu-u%20shu-ki.pdf
25. 政策研究大学院大学 65歳
http://www.grips.ac.jp/jp/docs/disclose/kyoinsyugyokisoku.pdf
26. 総合研究大学院大学 不明

国立大学の定年 中国・四国地区 (10校)

国立大学(87校)
http://www.mext.go.jp/b_menu/link/daigaku1.htm

中国・四国(10校)
65歳 ...6校
63歳 ...2校
不明 ...2校

1. 広島大学 63歳
http://home.hiroshima-u.ac.jp/~houki/reiki/reiki_honbun/x8920316001.html
2. 岡山大学 65歳
http://www.okayama-u.ac.jp/user/jinji/syotetuduki/tei/09.html
3. 山口大学 63歳
http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~hoki/kisoku/d1w_reiki/mokuji_bunya.html
4. 島根大学 (確認できず)
5. 鳥取大学 65歳
http://www.tottori-u.ac.jp/kouhou/kisokusyuu/reiki_honbun/u0950320001.html#top
6. 香川大学 65歳(助教 65歳, 助手 63歳)
http://kisoku.ao.kagawa-u.ac.jp/reiki_int/reiki_honbun/ax87200341.html
7. 高知大学 ?(確認できず)
8. 徳島大学 65歳
http://www.tokushima-u.ac.jp/jkoukai/reiki_int/reiki_honbun/u0180554001.html
9. 愛媛大学 65歳(教務職員-->助手は60歳)
教員規定 : http://www.ehime-u.ac.jp/pickup/kokai/houjin/index.html
10. 鳴門教育大学 65歳
http://www.naruto-u.ac.jp/kisoku/img/04shugyoukisoku/403.pdf